恋をするには煩悩が多すぎる

ジャニオタ道に足の先を踏み入れたくらい、今。

青春と東京とわたしたちの人生の曖昧さ、そしてジャニーズという育成システム(「傘を持たない蟻たちは」「Burn」「ピンクとグレー」感想)

f:id:carakarax:20150730020624j:plain

語りたい。

と、思わせてしまう成長物語だと思った。誰の?小説家加藤シゲアキの。

またしてもマイナスな感じから入るので、ネガティブNGな方はすっとばしてほしいが...書く。

2015年冬、ジャニーズにはまってすぐに都内の本屋をまわってまわって探した加藤の処女作「ピンクとグレー」。サブカルの街の本屋にはまったく存在せず、某チェーン店の本店で入手した。30万部も売った本なのに、店頭在庫のなさに「ま、ジャニーズだからね」と思っていた。*1
そんなミーハー心と斜めになった視線で読んだ「ピンクとグレー」の感想。

1作目の「ピンクとグレー」はすごく読みにくかったので投げ出した。内容関係なく、私には厳しかった。地の文の説明が多くて、「もっとことばの表現力をつかってくれ!」と叫びたくなるような黒さのページで、行動から情景から細かく細かく説明するのだ。それは最近のラノベの表現に似てる気がして、これはラノベなんだこれは同人誌なんだと言い聞かせて読み切ろうとしたけど、やっぱり無理だった。

そしてなんとなく再チャレンジ!と思って発売日に購入した2015年加藤の最新作にして4冊目の著作「傘をもたない蟻たちは」に対し、下記の感想を持った。*2

 基本的に恋愛小説と、SFが収められた短編集である。掲載誌は「小説 野生時代」と「週刊SPA!」、「ダ・ヴィンチ」、「シュシュアリス」である。
 ばらっばらの読者層。
 いくつかの書評でも書かれていたけれど、加藤シゲアキ初の短編集はこの読者層に合わせて書かれている。

 読んだ中で好みだったのはドロドロの「Undress」社会人の恋愛の話、すごく引き込まれた。オチに向かう部分の拙速さは若干否めないものの、前半のダメ人間の多重攻撃は娯楽小説として小気味よかった。著者が下世話な会社組織の話をここまで書き込めるなんて失礼ながら思ってなかった。

 文芸作品として好きなのは今作唯一の書き下ろしにしてラストを飾る「にべもなく、よるべくもなく」。千葉の港町を舞台に青春の痛さを、書いている。ちょっと漫画的表現でパターンだなあと思うところはなきしもあらずだが、街の名物じじいの扱いの話や、田舎町で突然親友にゲイを告白されて困惑するシーンなど、子供から大人になっていく過程で誰しもがどこかで受け入れていかなければならない社会のかたちを、胸に迫る表現で的確に描いている。
それに加えてとても素敵だったのは、ラストに描かれる東京の街並みだった。田舎から東京にもつ憧れ感をきちんと描いた表現に久しぶりに出会った。

 美大生の恋を描いた「染色」は文章の醸し出す質感が、東京の薄暗いアパートの空気感で、なつかしくもあり、映画的でもあり、美しいと感じた。SF作品である「イガヌの雨」はグロさが、ミニシアターでみる映画みたいで面白かった。もともとSFは苦手なので、詳細に評価できないのが悔しい。

 

ふつーの文芸書の感想である。これをもって、さらに今、「Burn.-バーン-」を読んで、感動している。
感想を書くと以下だ。


 この小説は、結末がない。登場人物にも、明確な言葉を吐いていかない。何か確定的な言葉をいう人たちが極端に少ない小説だと思った。
 しかし、舞台はクリアだ。
 現実に存在する宮下公園と現実に存在する立ち退き問題。ある時点を起点にして、未来も過去も語られる。
 この物語は、主人公の成長物語であるとともに、変化する人間の姿をゆったりと捉えた物語だ。決して著者は何かを決めつけない。ある種、世界の多様性やあるべき姿を達観しているようにさえ見える。確定的な言葉を持たないままに、主人公の作り出す世界観と、奇妙な登場人物たちによって世界のいちぶが切り取られた感覚。
 最後の数ミリの厚さのページに詰め込まれた、伏線の回収が読後感のよさに拍車をかけている。

 「Burn.-バーン-」は素直に、面白かった。人生の中で3000冊を超える小説を読んできて(高校卒業まではだいたい数えていたので超えているの確実(笑))ある程度小説表現のお作法が身にしみてしまっている自分でも、面白いと思えた。ということは「ピンクとグレー」からすると技術的な部分においてかなりのジャンプアップをしているのではないだろうか。

 

 先日のNEWS ZEROでの加藤のインタビュー(山ノ上ホテルでやっていた!よっ、文豪!)によると、グループ・事務所の中で誰にも負けない分野を持ちたい、それは小説なのではないか?と彼が小説を書こうと思い立ち、書きたい、と自ら事務所に訴えた加藤。すると1ヶ月で書いてみろと言われたんだそうだ。それが処女作「ピンクとグレー」。また、同インタビューによると彼はそれまでそこまで人生のなかで小説を読んできた人でもなかったらしい。であれば、たしかに1作目を描き切ったこと自体が努力と才能の証左であったのだろう。

 このはなしで思うのは、やはりジャニーズ事務所の育てかたのうまさだ。中途半端ことはやらせない、きちんとやりきり、継続できるものにはチャンスを与える。
ジャニーズタレントが新たな分野に手を出すというのはどういうことか。それはつまり、とても冷たい言い方をするのであれば、商業的には大きなファンの購買数という確たる市場をもって、ボーナスステージから始める(ように見える)ということである。発売した暁には昨今のコンテンツ産業では採算ラインを上回ることが約束されている。よっぽどコストをかけない限り。
 本人にとっては、その市場が反応しなかった場合を想定してきついプレッシャーだろうが、その緊張感をもってしても乗り切り、継続できる素質のある者にのみチャンスを与えているように見える。その選び方の妙がジャニーズの育成システムたらしめているのだろうと思ってしまう。

 ちなみに同じくジャニーズ事務所でアイドル外活動として自身の立体や絵画を公開している大野智加藤シゲアキで異なる点は、大野はアートとしての評価も何もいらないと言っているのに対して、加藤は賞がほしい、と言っている点である。大野の作品が衝動から生まれたものであるが、加藤の小説は武器として生まれたもの、という違い。

 

 2015年7月30日にテレビ番組で大野智櫻井翔(ニュースキャスター)、加藤シゲアキ、の鼎談が放送される。こちらでこのあたりについて語られることを期待し、「閃光スクランブル」を読む前にこの感想をアップします!楽しみだな「閃光スクランブル」!*3

 

関連リンク
トップアイドルの執念ーアウトサイダーアートとしての大野作品(FREESTYLE上海感想)
http://carakarax.hatenablog.com/entry/2015/07/28/033915

*1:初速でぶっちぎって購買層を食い荒らした後にはまったく売れない、というパターンなのではと思っていた

*2:ところで、「傘をもたない〜」は初期プロモーションで「性描写」を売りにしてたみたいだけど、それはやっぱりジャニーズとのギャップという意味で面白いから?そんなもの言わなくても、十二分に面白いと思う。というか、あんまり性描写性描写いうから、ものすごいエロい短編でも入ってるのかと思ったらまったくだったので、言い過ぎです(笑)

*3:加藤シゲアキさんは大の映画好きとしても知られる。よって私は次回作以降、いびつでえぐめでただ美しくて無意味な恋愛物を所望したい!ぜひ、そういうのいっぱい書いて!東京の空気感を生かしたミニシアターっぽいけだるい作品とか。東京をもっと描いてほしい