トップアイドルのCSRー日経エンタテインメント2015年7月号櫻井翔インタビュー感想ー
ここに2015年上半期のCD/DVD売り上げランキングがある。
上半期シングルヒットチャート
1位 嵐 Sakura 572,654
2位 嵐 青空の下、キミのとなり 518,817
3位 AKB48 希望的リフレイン 287,029ー日経エンタテインメント2015年7月号掲載、サウンドスキャン(2014年11月14日〜2015年5月17日)のデータ
3位に圧倒的な差をつけての嵐の圧勝。
突然だが、2014年のコンサートツアーの友人のチケット倍率をもとに筆者が推計した2015年春時点での嵐のファンクラブのアクティブアカウント数*1は110万人程度である。
110万アカウント×年会費4000円=44億円
これが嵐の”ベーシックインカム”であるといえるだろう。
この金額が全て音楽制作に向かうわけではないが、CDの販売数を考えても、今の日本で彼らほど潤沢なお金を持って楽曲制作に挑めるアーティストはいないのではないだろうか。
パーソナルコンピューターと各種デジタルツールの発展、フィジカルのCDの売り上げ減少によって音楽はよりミニマムな制作環境を指向する時代に入った。BOØWY、THE BLUE HEARTS、JUDY AND MARYなど、数多くのヒットアーティストを手がけてきた音楽プロデユーサー佐久間正英氏が自身の日記のなかで言っている。
どんな形であれ音楽制作には経費が派生する。その経費は”音の作り方・クオリティそのもの”に正比例する。
(2012年6月16日「音楽家が音楽を諦める時」(http://masahidesakuma.net/2012/06/post-5.html)より)
具体的な費用感でいうと
例えば10年ほど前まで一枚のアルバムを作るには1200~1500万の予算がかかった。今の世代の方からは「バブル!」と一蹴されるかも知れないがそれは違う。
ちゃんと真面目に音楽を作るにはそういう金額がかかるのだ。僕らのギャラが高かった訳でもスタジオが法外に利益をむさぼった訳でも無駄な時間をかけた訳でもない。録音作品を真面目に作るとはそういう事なのだ。
(中略)
この予算が抑えられると言うことは何かを削る事にしかならない。そしてその”何か”とは無駄を押さえることギャラやスタジオ代の交渉に留まらず、残念ながら『音楽の質』を落とすことになる。
詳しくは元の記事を参照してほしいが、1万枚も売れないようなアーティストがメジャーにもごろごろしている今日では、音楽を通じてお金をかせぐ筆頭となってしまったアイドルが、日本のなかでもっとも音楽制作にお金を使える存在となってしまった。
ここに、「嵐」にはトップを走るアーティストの責任として、最大限の質を持った制作をすることが求められているのではないか。
◆櫻井翔の「CSR」発言の凄味
嵐、トップアイドルの責任感、という観点からいうと日経エンターテインメント2015年7月号のインタビューで彼は下記の発言をした。
個人的にはキャスターをやらせていただくようになってから、CSR(=企業の社会的責任)みたいなことをよく考えるんです。どう社会貢献できるかを。
(中略)
ただ、グループと僕の意思が両立できるのなら、やっぱりそれは積極的に形にしていきたくて。
前述のように、彼らには大きな市場(ファン)がいる。一挙手一投足を凝視するファンが。
これだけのマスの影響力を持つ存在は、ほかに、今の日本にはあまり見当たらない。このことをもって「責任がある」と自ら語れる彼は、覚悟と頭脳のひとなんだなと、改めてその凄みを感じるのだ。
◆兼業アイドルとして果たしてきた役割と報道キャスターとしての危うさ
このインタビューの中でもうひとつ特徴的だと思ったのは下記のという発言。
キャスターをもう9年ほどやらせてもらってて、来たるべき40代を見据えたときに自分は、ジェネラルなお話はできるけど、"刀"を持ってないな、と思って。
確かに、ニュースZEROを見ていて思うのは、「庶民感覚」に寄り添いすぎなのではないか、ということだ。
何かをかみくだいて説明する、伝える。多大なる影響力と親しみやすさを持つアイドル櫻井翔ならではの役割ではある。
が、報道というのはより世界をよくする方向へとひとを導くために世界の情勢をひとに伝えることであると私は思う。
1つとても気になっていることがある。
それはアイドルという立場を崩さないまま報道の現場に彼がいるということに対してだ。
アイドルであるがゆえに(まあおもにバラエティにおいてだが)「立場上発言できません」と言ってしまう場面が彼にはある。あたりまえでしょ?別に報道の枠でその規制されてるわけじゃないんだから関係なくない?と思う向きも多いだろう。報道記者のほとんどが新聞社やテレビ局のサラリーマンで占められる日本において、アイドルとしての制約なんてそれをほとんど一緒なのではないかと思われる向きも多いだろう。しかし、ある程度こうして明言された「NG」を持つ彼と建前上の「NGなし」を持つ企業記者では伝える正義としての「報道」の性質は違ってくる。*2
続けること、実績を積み重ねて作る信頼感でしか、乗り越えられない課題のように思う。
自身がいうように、現状では「親しみやすい解説員」の役割が大きい櫻井翔のニュース番組での姿。
どうやって変えていくのだろう?とても興味がある。*3
ジャニーズアイドルが続けることによって実現すること、新規市場内で存在感をあげていくことについては加藤シゲアキを通じても語った。彼らの努力と才能に敬意を払いながら、生み出されるコンテンツを最大限に楽しんでいきたい。